人間なら誰でも「所有欲」を持っている。
あれも欲しい、これも欲しい。
目に見えるすべての物理的なものを「欲しい」
と思う。自分で独占したいと思う。
サラリーマンの場合、仕事において、
組織を統率したいという思いは
「組織を所有したい」という思いに繋がる。
つまり、部下や人員、設備など、すべてのリソースを
独占し、自分の思い通りに動かしたいと願うのだ。
しかし、雇われている以上、その願いは残念ながら叶わない。
では、独立して会社を興し、経営者になった場合、
その「所有欲」は完全に満たされるだろうか?
そんなことは無い。
組織が大きくなればなるほど、そこには中間管理職つまり
マネージャーの存在が必要になる。となると、
そのマネージャーの層で、自分の意志が屈折して
最下部に伝わる。そうなると、自分で思い通りに
組織を動かしているつもりでも、実際にはそうならない。
また、株式会社の場合、やはり株主の存在を無視した経営はできない。
つまり「自分の思い通りにはできない」のである。
経営者でありながら、それは株主から見れば
「経営という業務を担当している一社員」に過ぎない。
では、株主になれば、組織を思い通りに動かせるのだろうか?
確かに、会社の経営方針を決めることはできるだろう。
しかし、その会社の業務の「専門性」を理解していない場合、
やはり、実務レベルでの支持はできない。「お金は出しても、
細かいことまで口を出すだけの知識は無い」という状態。
大きな組織では、社員、マネージャー、経営者、株主など、
多くの人間の意識が交じり合い、お互いの思惑が絡み合う。
そのような複雑な状況では、もはや一人の人間がすべてを
支配することなど不可能。政治の世界でさえ、総理大臣一人が
何でも思い通りにできるわけではない。最終的には「調整役」に
ならざるを得ない場合もある。
その会社の事業が、公共性の高い事業(通信、電気、交通など)
を行なっている場合、経営者の意識は、ますます組織を動かし難い
ものにする。公共の目、世間の目、法的な規制が重くのしかかるからだ。
公共性の高い事業は、社会に対する影響力も大きい。
だから、その組織を動かす経営者の影響力も自然と大きいものに
なりがちだ。しかし、それが影響して暴走してしまうこともあるだろう。
だから、暴走を防ぐために、あらゆる「足かせ」を準備しようとする
周りの人間がいる。そのおかげで、健全な経営を保っていられる。
影響力の大きい企業ほど、経営者個人の裁量には影響されない作りになっている。
それが世の中のバランスを保っている。だとすれば、本当に、100%、完璧に
自分の思い通りに支配したい組織を作るためには、どうすればいいのか?
それは「規模の小さい=社会的影響力の少ないビジネス」を立ち上げるしかない。
そうなると、もはや個人事業主のレベルかもしれない。
法人化しても、有限会社のレベルだろう。
でも、その組織の中では、自分の思い通りに支配力を誇示することができる。
たとえ、世の中に対する支配力や影響力が無かったとしても。
どんなに優秀な経営者であろうとも、政治家であろうとも、
その個人が、社会的に大きな影響力を持つことは許されない。
そのような仕組みが成り立たないように、日本の法律は作られている。
だとすれば、たとえ会社を辞めて独立しても「世の中を支配するほどの
大きなビジネス」なんて、立ち上げられないのだ。
大企業の経営者になったからといって、その大企業をすべて
自分の思い通りに動かせるわけではないのだから。所有欲は満たされない。
となると、自己の支配欲や所有欲を満たすための独立は無意味になる。
それよりも「社会にどんなメリットを提供できるのか?」を考える方が現実的である。
世の中に提供したいメリットが明確ならば、
それを自分以外の誰かが提供しても、目的は達成される。
つまり、自分のビジョンに賛同してくれる社員、協力企業、株主の
意向を尊重した経営ができる。
そこには「支配欲」は必要ない。ただビジョンを実現させたい想いがあるだけだ。
所有欲や支配欲を満たすための起業は、結果として成功しない。
一方、ビジョンに賛同することなら、サラリーマンでもできる。
勤務先の会社の方向性やビジョンを理解した上で、担当業務に
専念すればよいのだから。
「何を欲するか?」ではなく「何を与えたいか?」が経営の本質。
その精神は、サラリーマンであろうが、経営者であろうが、持つべき精神。
自分が提供できる価値を、世の中に提供する。それが結果として富を生み出し、
自分にも還元されるのだから。
(次回につづく。)
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